診察する医師

 

「慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)」は、医師や医療職の間でもあまり知られていないとても珍しい感染症の1つです。

「ザ!世界仰天ニュース」で取り上げられた声優の松来未祐(まつきみゆ)さんの闘病生活は、記憶に新しいのではないでしょうか?

 

今回は、そんな慢性活動性EBウイルス感染症の診断基準や症状、治療について、医療職目線から分かりやすくお伝えしていきたいと思います。

松来未祐さんご本人も、生前に「慢性活動性EBウイルス感染症について知ってもらうことで1人でも多くの命を救いたい」とお話していたそうですので、少しでも多くの方に読んで頂き、広めることが出来れば幸いです。


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慢性活動性EBウイルス感染症とは?

病気の説明をする医師

 

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)というのは、「EBウイルス」というヘルペスウイルスの一種が原因となって起こる難病です。

ヘルペスウイルスといえば、口唇ヘルペスなどの原因となるウイルスなので、知っている方も多いのではないでしょうか?

 

口唇ヘルペスといえば誰にでも繰り返し起こるイメージがあるかと思うのですが、これは元々ウイルスに感染した状態で日々を過ごしているためです。

そして、それはEBウイルスも例外ではありません。つまり、EBウイルスは元々多くの人が既に感染しているウイルスなんです。

 

具体的には、5歳以下の子供であればおよそ半数の50%、成人であれば90%以上もの人が感染していると考えられています。

ただ、ほとんどの人が感染しているとは言っても、実際に慢性活動性EBウイルスを発症するのはごく一部なんです。年間で言えば、日本の患者数はおよそ100人ほどと考えられていますね。

 

つまり、慢性活動性EBウイルスは誰でも発症する可能性のある病気で、自分自身の免疫力が落ちた時に発症してしまう潜伏するタイプの病気というわけですね。

免疫力が低下する理由は色々と考えられますが、一般的に起こりやすいことで言えばストレスや疲労、病気などがきっかけになると考えられます。

 

慢性活動性EBウイルス感染症を発症する理由

慢性活動性EBウイルス感染症は、一言で言ってしまえば体の免疫に関係する白血球の1つであるリンパ球に感染して発症する病気です。

 

人のリンパ球には、大まかに分けて以下の3つの種類があります。

  • Bリンパ球(免疫力の元となる抗体を作る科学者)
  • Tリンパ球(外敵と戦う免疫の司令塔)
  • NK細胞(体内のパトロールをする警備員)

 

通常であれば、EBウイルスはこの中のBリンパ球に潜伏した状態で感染することが多く、この状態では慢性活動性EBウイルス感染症を発症することはありません。

ですが、ごくまれに免疫力の低下などによってTリンパ球やNK細胞といった別のリンパ球に感染してしまうことがあります。これが慢性活動性EBウイルス感染症ですね。

 

この感染したTリンパ球やNK細胞といったリンパ球が増殖して体の中で悪さをすることで、体には様々な症状が現れるようになるというわけです。


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慢性活動性EBウイルス感染症の症状は?

微熱を示す体温計

 

慢性活動性EBウイルス感染症で見た目に現れる特徴的な症状は以下の通りですね。

  • 何ヶ月も続く発熱(微熱が続いたり突然高熱が出ることもある)
  • 体のだるさ
  • 首などのリンパ節の腫れ
  • 体の発疹や水ぶくれ
  • 口内炎

 

上に書いたような症状が続いたり、繰り返し起こる場合には、慢性活動性EBウイルス感染症を発症している可能性があります。

 

特に注意して見ておきたい症状は「長引く発熱」ですね。

感染しているTリンパ球やNK細胞は元々炎症を引き起こす性質を持っているので、炎症による発熱やリンパの腫れ、体のだるさといった症状が現れやすいのが特徴です。

 

また、感染したリンパ球が体内に徐々に広がっていくことで、他にも色々な症状が現れるようになっていきます。

放置してしまうと、最終的には心臓や肝臓、腎臓などの臓器がまともに働かなくなったり、悪性リンパ腫や白血病などのガンが全身に広がるという経過をたどります。

 

蚊アレルギーを起こしている人は要注意

「蚊アレルギー」というのは、蚊に刺された時に普通の人より激しい症状が出るアレルギーの一種です。

実は、蚊アレルギーはEBウイルスが関係して起こる症状と考えられていて、慢性活動性EBウイルス感染症の人のおよそ30%に合併しているとされています。

 

蚊に刺された時に水ぶくれが出来たり、刺された後に発熱したりする場合には蚊アレルギーの可能性がありますので、もし思い当たる場合には、他の症状が出ていないかチェックするようにしましょう。

 

慢性活動性EBウイルス感染症の診断基準は?

診断のための症状チェック

 

まず、以下のような症状が出ていないかを確認してみてください。

  • 原因が分からない37.5度以上の発熱が3ヶ月以上に渡って続く、あるいは繰り返す
  • 首のリンパ節の腫れがずっと続いている
  • 蚊などの虫に刺された部位が水ぶくれを起こし、合わせて熱が出る
  • 日光が顔や手足などに当たるたび、繰り返し水ぶくれが出来る

 

このような症状が出ている場合には、一度病院で検査を受けた方が良いでしょう。何科か迷ったら子供の場合は「小児科」、大人の場合は「内科」を受診するようにしてください。

初感染の時期や発症する時期は人によって違いますので、年齢を問わず検査を受けることをおすすめします。

 

病院では、主に以下の3つの検査を上から順番に行うことで確定診断を行います。

  • EVウイルス抗体価の検査(保険適応あり)
  • DNA定量検査(全額自己負担)
  • リンパ球検査(検査費無料)

 

細かい検査内容については脱線するので省きますが、分かりやすく言ってしまえば専用の検査をしないと分からない病気ということですね。

しかも、症状の大半は風邪などでもみられるものですので、医師としても経過を診なければ判断が難しい病気でもあります。

 

つまり、早期に発見するためには、あなた自身が症状で疑いを持ち、医師に相談を投げかけることが大切と言えるでしょう。

お伝えした4つの症状のうち、1~2個でも当てはまる場合は相談をしてみることをおすすめします。


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慢性活動性EBウイルス感染症の治療と予後

予後を説明する医師

 

慢性活動性EBウイルス感染症には、今のところ完全な治療法が存在しません。

「造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)」という方法で完治する可能性はあるのですが、まだ実際に治療をした人の数が少なく、完全な治療法とまでは言えないのが現状ですね。

 

この治療法では、今のところ治療してから3年後の生存率は90%以上と言われています。

ただ、抗がん剤を使ったり、リスクのある骨髄移植を行わなければならないことから、治療をためらう方も少なくありません。

 

しかし、造血幹細胞移植という治療は元気なうちにしか行えない治療法なので、悪化してからでは手遅れになります。

慢性活動性EBウイルス感染症は確実に進行していく病気で、一度症状が落ち着いたように見えても再発を繰り返す病気です。

 

今までは元気だったのに急に症状が悪化するということも多く、放置した場合の予後は良くありません。

多臓器不全やがんなどにより、数年以内でおよそ50%の方が、10年以内にはほぼ100%の方が亡くなると考えられています。

 

つまり、慢性活動性EBウイルス感染症では、早期発見・早期治療が大切になります。気になる症状がある方は、ひとまず一度病院を受診するようにしてください。

 

まとめ

慢性活動性EBウイルス感染症は、ほどんどの人にとって他人事ではない病気です。

誰でも発症する病気にも関わらず予防接種などの予防法はなく、放置した場合の予後も良くありません。

 

今回お伝えしたように早期発見・早期治療が重要になりますので、まずは気になる症状があれば、病院を受診して相談するようにしてくださいね。

松来未祐さんのご冥福をお祈りするとともに、この記事が1人でも多くの早期発見に繋がることを祈っています。